女 紋



 婦人の礼服につける紋はいずれの場合も「女紋」をつける。
 家紋はもともと「家」と苗字の独自性を象徴したマークであり、家中がひとつの同じ紋を使うのがたてまえである。しかし、封建時代は男子専用とされていた。それが江戸時代になると、女性専用の女紋が生まれた。  最初は嫁入りの際に持参する道具や調度品に実家の紋を使い、結婚後もそのまま使用した。さらに女児が生まれると母方の家紋を受け継ぐというかたちで定着し、実家の定紋となんらかの因縁のあるものを選ぶ風習が生まれていったようだ。
 女紋は定紋に比べて小形のものが多く、格式ばった形より細い線で描いた優美なものが好まれた。「陰紋」や「中陰紋」と呼ばれる複線(陰線)で描かれたもの、糸輪という細い外郭円の中に紋章の一部だけを表わして全体を見せない「覗き」と称するものなどは女紋に使われることが多い。
 この女紋の扱いは地方によって違うようだ。結婚したら嫁入り先の家紋を用いる地方と、尾張地方では、先述のように嫁が母の紋を持ってきて、これを嫁の紋として、その娘が嫁ぐときまたこの紋を持っていく地方とがある。  しかし、現在では嫁ぎ先の定紋を女紋としてつけるよになっていることが多いようだ。



左から:糸輪に覗き蔦・糸輪に豆桐・雪輪に覗き梶葉・中陰立ち沢瀉







[資料:家紋の事典(真藤建志郎著:日本実業出版社)]